カナダ軍のC8カービン、そのバレルプロファイルの謎

カナダ軍のC8カービン、そのバレルプロファイルの謎

カナダ軍兵のARFCOMユーザーLeg氏が、アフガニスタンで撮影したDiemaco社製C8カービンの写真です。Exif情報に記された撮影日は2009年5月22日となっています。

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写真: Leg031 via Photobucket

Leg氏曰く、最初期のモデルであるC8カービン ((その後継種として、フラットトップアッパーを備えたC8A1、A2プロファイルのヘヴィーバレルを備えたC8A2、そしてグレネードランチャー/銃剣装着用の「サイモン・スリーブ」(Simon sleeve)がバレルに追加された、現行モデルのC8A3が存在します。(Colt Canada社2013年度カタログ [PDF])))は主に衛生兵に対して支給されていて、この写真のC8カービンも、Leg氏が所属する小隊の衛生兵のものだそうです ((CF C8 – AR15.COM))。また、装着されたアクセサリーに関して、Cadex Defence社のヴァーティカルグリップとDiemaco社のTRI-AD Iマウント、そしてInsight Technology社のM3Xイルミネーターは官給品、Trijicon社の4倍率ACOGとBlue Force Gear社のVickers Slingは私物であるとのことです ((CF C8 – AR15.COM))。

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写真: Leg031 via Photobucket

シリアルナンバーの上2桁から、1987年製であることが分かります。それに続くアルファベット2文字は、C7ライフルでは「AA」、C8カービンでは「AB」になります ((CF C8 – AR15.COM)) ((Leg氏によれば、C9軽機関銃(FN Minimi; M249)では「AC」であるとのことです。))。

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写真: Leg031 via Photobucket
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写真: Leg031 via Photobucket

注目すべきは、そのバレルの輪郭(プロファイル)です。一見、M16A1に準拠したA1プロファイル ((M16A2に準拠したA2プロファイルよりも細身で軽量のプロファイル。ライトウェイトプロファイル、ペンシルプロファイルとも呼ばれます。))のように見えますが、先端部がラッパ状に広がっている上、フロントサイトベースの下で太さが大きく変わっていることが分かります。

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出典: CHRIS65-IL via Photobucket

A1プロファイルとA2プロファイルでは、フロントサイトベース部分の太さが異なるため、使用するフロントサイトベースも異なります。また、5.56x45mm NATO(SS109/M855)弾の標準化に合わせ、ライフリングのツイストレートも1:12から1:7 ((M16A1では12インチごとに1回転、M16A2では7インチごとに1回転する。))に変更されました ((ただしM16A2の登場以後は、1:7ツイストのA1プロファイルバレルも見られるようになります。)) ((AR-15 variants – Wikipedia, the free encyclopedia))。

Leg氏によれば、このC8カービンのバレルは.750インチ径のフロントサイトベースを使用し、ツイストレートは1:7であるとのことです ((CF C8 – AR15.COM))。つまり、A1プロファイルのバレル径(露出部)、A2プロファイルのフロントサイトベースとライフリング、そしてそのどちらにも見られない独特のラッパ状の広がりを持つこのバレルは、特殊なプロファイルのバレルであると言えます。Leg氏はこれらの特徴から、このバレルを「C8プロファイル」と呼んでいます ((Lightweight carbine barrel link? – AR15.COM))。

 

このC8プロファイルは元来、1984年9月より開発が始まったXM4カービン(Colt RO720)のバレルプロファイル候補の1つとして提案されたものであったと考えられます ((Bartocci, C. R. (2004). Black Rifle II: The M16 into the 21st Century. Canada, Collector Grade Publications. pp.67-73.))。この事についてはLeg氏も言及しています ((CF C8 – AR15.COM))。

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XM4カービンの開発中に提案された3つのバレルプロファイル案。1つ目の案(上)が、C8プロファイルとよく似ています。条件の1つとして、M203グレネードランチャーをマウントできることが求められていて、結果的に3つ目の案(下)が採用されました。
出典: Bartocci, C. R. (2004). Black Rifle II: The M16 into the 21st Century. Canada, Collector Grade Publications. p.72.

一体何故、XM4カービン向けに試作されたバレルプロファイルが、カナダ軍のC8カービンに用いられているのでしょうか? C8カービンの生産に関する事情から考察します。

カナダ軍によるC7ライフル/C8カービンの調達にあたり、アメリカのColt社が、初期調達分をそれぞれRO715/RO725として生産することになりました。Colt社のRO715/RO725がカナダ軍のトライアルに合格した後、生産をアメリカからカナダへ徐々に移すため、5段階の移行計画が策定されました。この間、カナダで生産されなかったパーツはColt社によって供給されていました ((Bartocci, C. R. (2004). Black Rifle II: The M16 into the 21st Century. Canada, Collector Grade Publications. p.195.))。

Diemaco社による第1段階のプロトタイプは、予定通り1985年8月にカナダ軍へ納入され、1986年3月から選抜部隊へ配備を開始することが予定されました。そして、純カナダ製を目指した第5段階への移行が1989年1月に完了しました ((Bartocci, C. R. (2004). Black Rifle II: The M16 into the 21st Century. Canada, Collector Grade Publications. p.195.)) ((『Black Rifle II』の執筆時点で、Diemaco社は一部パーツの生産をアメリカの企業に外注していたようです。Diemaco社がColt社に買収されてColt Canada社となった今、「純カナダ製」は達成されているのでしょうか?))。

Leg氏が撮影したC8カービンは1987年製です。以上の事から、このC8カービンは生産地移行計画の最中に生産されたものであり、アメリカのColt社によって供給されたパーツが使用されている可能性があると言えます。Colt社がXM4カービンの開発を開始したのは1984年9月ですから、Colt社が当時開発中だったXM4カービン用に試作したバレルを、C8カービンの生産支援のためにDiemaco社へ供給したと考えれば、辻褄が合うのではないでしょうか。

この仮説を証明するためには、第5段階への移行が完了した1989年1月以降に生産されたC8カービンを調査する必要があります。残念ながら、現時点ではC8カービンに関する資料をあまり多く持ち合わせていないため、それ以降のC8カービンがどうなっているのか分かりません。もしも、何か手掛かりになりそうな情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、今後の研究のためにも教えて頂けると幸いです。

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このバレル(製造者名不明)もC8プロファイルのように見えます(バレルレングスが異なる可能性あり)。ところで、先端部のラッパ状の広がりには、一体どんな役割があるのでしょうか?
出典: crackedcornish via Photobucket

 

おまけ:

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出典: Larry Vickers / Facebook
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出典: Larry Vickers / Facebook

ラリー・ヴィッカース氏がFacebookに投稿していた写真です。カナダ軍特殊部隊のColt Canada C8 IUR(Integrated Upper Receiver)だそうです。ハンドガードが一体になったモノリシックアッパーレシーバーを採用していることがIURの特徴の1つですが、それよりも(恐らく)私物でゴテゴテとカスタムされ塗装が施されたその外見が目を引きます。

今年Colt Canada社が発表し、L119A1の後継としてイギリス軍特殊部隊に使用されることが期待されているL119A2もモノリシックアッパーを採用しています。アメリカの本家Colt社も既に、Advanced Colt Carbine Monolithic(ACC-M; RO922/RO923)などでモノリシックアッパーを採用していますが、果たして米軍はモノリシックアッパーに関心を示しているのでしょうか? もしもSOPMOD Block 3が開発されるなら、モノリシックアッパーが採用されるだろうと僕は密かに予測しています。