米海軍特殊部隊SEALsのMk 18 Mod 1カービン ― それはもはやM4A1カービンではない(+ アッパーレシーバーの個体管理について)

米海軍特殊部隊SEALsのMk 18 Mod 1カービン ― それはもはやM4A1カービンではない(+ アッパーレシーバーの個体管理について)

本稿の要旨

  1. 現在の米海軍特殊部隊(NSW / SEALs)は、Mk 18 Mod 1カービンを使用している。
  2. 現在の米軍特殊部隊(SOCOM)は、M4A1 / Mk 18 Mod 1カービンのアッパーレシーバーについて、シリアルナンバーとデータマトリックスの表示による個体管理を実施している。

貴重な情報と写真を提供してくださったARFCOMのCombat Diver氏をはじめとする諸兄に感謝する。

Mk 18 Mod 1カービンについて

仕様と特徴

  • 海軍特殊部隊(SEALs)が現在使用している最新のカービンである。
  • 基本的には、陸軍特殊部隊(SFG / Ranger)などが使用しているM4A1 CQBR Block IIと同一の仕様である(10.3″ バレル + MK18 RIS II + SureFire FH556-RC) ((Combat Diver (2015/09/16) [Online forum message], Official Mk 18 & CQBR Photo and Discussion Thread, p.1010, AR15.com))。
  • ロウワーレシーバー左側面の「M4A1 CARBINE」刻印を線で取り消し、シリアルナンバーの下に「NAVY 18-1」刻印を追加。すなわち、もはやM4A1カービンではない
    • NSWCクレーンが兵器庫に出張し、現地で刻印を追加している ((Combat Diver (2015/09/16) [Online forum message], Official Mk 18 & CQBR Photo and Discussion Thread, p.1010, AR15.com))。
    • 銃には「NAVY 18-1」と刻印されているが、書類上の名称は「Mk 18 Mod 1」である ((Combat Diver (2015/09/16) [Online forum message], Official Mk 18 & CQBR Photo and Discussion Thread, p.1010, AR15.com))。
    • 全ての銃がこのように刻印されているとは限らない ((Combat Diver (2015/09/10) [Online forum message], Official Mk 18 & CQBR Photo and Discussion Thread, p.981, AR15.com))。例えば、追加された字句は「Mk 18-1」であるという報告もある ((Combat Diver (2015/07/31) [Online forum message], Official Mk 18 & CQBR Photo and Discussion Thread, p.847, AR15.com)) ((Combat Diver (2015/07/31) [Online forum message], Official Mk 18 & CQBR Photo and Discussion Thread, p.847, AR15.com))。
  • ロウワーレシーバー右側面にデータマトリックス / UIDタグが表示されている(従来通り)。
  • アッパーレシーバー左側面にシリアルナンバーとデータマトリックスが表示されている(詳細は後述)。

要するに、M4A1 CQBR Block IIの名称と刻印が変わっただけである。

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Combat Diver (2015/09/14) [Mk 18 Mod 1, Lower S/N W377***, Upper S/N 1000****] Retrieved from AR15.com
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Combat Diver (2015/09/14) [Mk 18 Mod 1, Lower S/N W377***, Upper S/N 1000****] Retrieved from AR15.com
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Combat Diver (2015/09/09) [Mk 18 Mod 1, Lower S/N W347***, Upper S/N X7610] Retrieved from AR15.com
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Combat Diver (2015/09/09) [Mk 18 Mod 1, Lower S/N W347***, Upper S/N X7610] Retrieved from AR15.com

米海軍特殊部隊における使用例

  • 写真の初出および撮影日時/場所は不詳である。
  • ロウワーレシーバー左側面の追加刻印に注目して欲しい(1枚目)。
  • アッパーレシーバー左側面のシリアルナンバーに注目して欲しい(2枚目)。
  • 銃の先端に装着されているのはブランクアダプター(SureFire BFA556/BSD556)。
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Photo retrieved from AR15.com
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Photo retrieved from AR15.com

追記: 「NAVY 18-1」刻印をはっきりと確認できる上に、撮影日時/場所が明確に示されているミリフォトを見つけたので、追加して紹介する。(元の写真を私がトリミングしたものである。)
最近のNSW/SEAL隊員のMk18/M4A1は、アッパーレシーバーとクレーンストックに名前(ニックネーム? コールサイン?)が書いてあることが多い。これも、アッパーレシーバーの個体管理が実施されているためであると考えられる。

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Greek special forces and U.S. Navy Seals fire their weapons at a range during Sarisa 16, an annual Greek exercise, near Athens, Greece Sept. 14, 2016. (U.S. Army photo by Staff Sgt. Marcus Fichtl)
Photo retrieved from DVIDS

Mk 18 Mod 0カービンとの関係性

Mk 18 Mod 0の概要

  • NSN 1005-01-527-2288
  • 米軍特殊部隊がかつて使用していたM4A1 CQBR Block Iとは別物である。
  • 元々は、海軍が持て余していたM16A1のロウワーレシーバーに、CQBRとSOPMODストックを装着することで改修を行ったものである。
  • 当初は特殊部隊への配備が計画されていたものの、特殊部隊は既存のM4A1にCQBRを装着して使用したため、Mk 18 Mod 0は主に海軍艦船のVBSSチームが使用している。
  • ロウワーレシーバー右側面に追加されたレーザー刻印が最大の特徴である。しかし、「追加刻印ありM16A1ロウワー」→「追加刻印ありM4A1ロウワー」→「追加刻印なしM4A1ロウワー」 ((Combat Diver (2016/06/20) [Online forum message], Official Mk 18 & CQBR Photo and Discussion Thread, p.1557, AR15.com))と移行しているため、現在では特殊部隊のM4A1 CQBR Block Iと同一の仕様になっている。
  • 追加刻印ありM4A1ロウワー + 14.5″ バレルのMk 18 Mod 0も使用が確認されている。

Mk 18 Mod 0とMk 18 Mod 1の違い

  • Mod 0は海軍のVBSSチームが使用しているのに対し、Mod 1は海軍のSEALチームが使用している。
  • Mod 0はM16A1ロウワーからM4A1ロウワーへ移行したのに対し、Mod 1は最初からM4A1ロウワーを使用している。
  • Mod 0はM4A1 CQBR Block Iに類似しているのに対し、Mod 1はM4A1 CQBR Block IIに類似している。

M4A1 CQBR Block IIとの関係性

M4A1 CQBR Block IIの概要

  • M4A1カービンにCQBRを装着し、更に、CQBRをSOPMOD Block IIアクセサリーで改修したもの。
  • 現在、陸軍特殊部隊(SFG / Ranger)、海兵隊特殊部隊(MARSOC)、空軍特殊部隊(AFSOC)などで幅広く使用されている。Mk 18 Mod 1に移行するまでは、海軍特殊部隊(SEALs)も使用していた。
  • 下の写真は陸軍特殊部隊のM4A1 CQBR Block IIを写したものである。

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Combat Diver (2015/11/23) [M4A1 CQBR Block II, Lower S/N W323***, Upper S/N 10001***] Retrieved from AR15.com
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Combat Diver (2015/11/23) [M4A1 CQBR Block II, Lower S/N W323***, Upper S/N 10001***] Retrieved from AR15.com

M4A1 CQBR Block IIとMk 18 Mod 1の違い

  • 「NAVY 18-1」刻印と取り消し線の有無。
  • 陸軍と海兵隊はM4A1 URG/CQBRと呼んでいるが、レシーバーには「M4A1」と刻印されている。海軍は同型の銃をMk 18 Mod 1と呼んでいるが、レシーバーには「NAVY 18-1」と刻印されている ((Combat Diver (2016/02/01) [Online forum message], Official Mk 18 & CQBR Photo and Discussion Thread, p.1391, AR15.com))。

米海軍の物品台帳における記載内容

Mk 18 Mod 1について、海軍の物品台帳には次のように記載されている ((Combat Diver (2015/11/13) [Online forum message], Official Mk 18 & CQBR Photo and Discussion Thread, p.1207, AR15.com))。

  • Rifle, Mk18 Mod 1 Lower Assy
  • Rifle 10 CQBR (Mod 0 upper only)
  • Rifle 10.3 RIS IIA URG (Mod 1 upper only)

アッパーとロウワーのそれぞれに異なるシリアルナンバーが与えられて、別々に管理されている。私の知る限り、Mod 0アッパー(CQBR Block I)はNSN 1005-01-498-1913であり、Mod 1アッパー(CQBR Block II)はMCN 1090-01-D12-0980であるが、Mk 18 Mod 1のNSN/MCNは未だ不明である。

アッパーレシーバーの個体管理について

  • SOCOM隷下の特殊部隊全般で実施されている ((Combat Diver (2015/11/27) [Online forum message], Official Mk 18 & CQBR Photo and Discussion Thread, p.1235, AR15.com)) ((Combat Diver (2016/07/16) [Online forum message], Official Mk 18 & CQBR Photo and Discussion Thread, p.1576, AR15.com))。
  • 全てのアッパーにシリアルナンバーが表示されているわけではなく、新造のアッパーのみに限られている ((Combat Diver (2016/02/01) [Online forum message], Official Mk 18 & CQBR Photo and Discussion Thread, p.1391, AR15.com))。
  • アッパーにシリアルナンバーを表示することには、物品台帳に登録することでアッパーの流出を防ぐ目的がある ((Combat Diver (2015/11/27) [Online forum message], Official Mk 18 & CQBR Photo and Discussion Thread, p.1235, AR15.com)) ((Combat Diver (2016/07/16) [Online forum message], Official Mk 18 & CQBR Photo and Discussion Thread, p.1576, AR15.com))。
  • アッパーに表示されるシリアルナンバーには次のような規則性が見られる ((Combat Diver (2016/07/16) [Online forum message], Official Mk 18 & CQBR Photo and Discussion Thread, p.1576, AR15.com))。
    • 「X7***」(CQBR2-X7***)→ 初期の10.3″ アッパー?
    • 1000****」→ 10.3″ アッパー
    • 1400****」→ 14.5″ アッパー

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Combat Diver (2016/07/14) [A couple of Mk 18 Mod 1’s] Retrieved from AR15.com
img_2192_mk18-1
Combat Diver (2016/07/14) [Mk 18 Mod 1, Lower S/N W379541, Upper S/N CQBR2-X7149] Retrieved from AR15.com
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Nikiel09 (2015/05/13) [10.3″ upper receiver group, S/N 10001777] Retrieved from AR15.com
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Combat Diver (2016/07/16) [14.5″ upper receiver groups, S/N 14003027 & 14002902] Retrieved from AR15.com
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Combat Diver (2016/07/16) [14.5″ upper receiver groups, S/N 14003027 & 14002902] Retrieved from AR15.com

覆されたMk 18 Mod 1の不存在説

「Mk 18 Mod 1」という名称は、M4A1 CQBR Block IIを指すものとして、数年前からエアソフト業界を中心として用いられている。しかし、ARFCOMなどの実銃系フォーラムでは、「Mk 18 Mod 1」は実在しないものとされていた。「Mk 18 Mod 1不存在説」を唱えた中心人物であるARFCOMのAugee氏は、2011年12月に次のように述べている ((Augee (2011/12/07) [Online forum message], SBR picture and discussion thread, p.90, AR15.com))。

現時点で存在が確認されているMk 18の制式名は、Mod 0のみである。Mk 18 Mod 1の制式名が存在するという証拠は未だ明らかになっていない。
商業におけるMk 18 Mod 1という呼称は、M4[A1] CQBRとMk 18 Mod 0の区別に関する誤解[の産物]である。多くの人々は、RASを装着したM4[A1] CQBRがMk 18 Mod 0であると考えた。(そして今もそう考えている。)そのため、RIS IIを装着したCQBRの配備が確認されたとき、彼らはそれが新たな改良(Mod)であるに違いないと推測したのである。そもそも、RASを装着したCQBRにMk 18という制式名が与えられたことは一度もない。よって、SOPMOD Block IIのRISを装着したCQBRは、Mk/Mod式命名法とは何の関係もないのである。
(中略)
要するに、それでもやはり、Mk 18 Mod 1は未だ存在しないのである。
(中略)
M4[A1] CQBRとMk 18 Mod 0は同じものではない。M4[A1] CQBRは、SOPMOD計画を通じて、NSWCクレーンの手によって、KAC M4 RIS → M4 RAS → DD MK18 RIS IIと改良を重ねてきたのである。

念押しとして、私は2015年5月に、「Mk 18 Mod 1は実在するか?」という単刀直入な質問スレをARFCOMに建ててみたが、それについて「実在する」というレスは一つも得られなかった。(ちなみに、このスレでAugee氏より、「14.5″ バレルのMk 18 Mod 0がMod 1になるかもしれない」という助言を頂いた。)
結局、2015年の夏にCombat Diver氏が提供してくださった情報と写真が、Mk 18 Mod 1不存在説を覆すきっかけになった。つまり、Mk 18 Mod 1の存在が証明されたのである。

しかし、今回の発見を用いて、それ以前のMk 18 Mod 1の存在をも立証することは難しいだろう。すなわち、「やはり海軍特殊部隊は以前からMk 18 Mod 1を使用していた」と言うよりも、むしろ「海軍特殊部隊はそれまでM4A1 CQBR Block IIを使用していたが、最近ではMk 18 Mod 1に移行している」と言う方が妥当であると思われる。ロウワーレシーバーに表示されたUIDタグの物品番号(P/N)が分かれば、M4A1とMk 18を判別することができる。P/N 12972700であれば、それはM4A1である。もっとも、Mk 18 Mod 1のP/Nは未だ不明であるが。

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Combat Diver (2016/07/16) [Mk 18 Mod 1 carbine & Mk 24 Mod 0 pistol] Retrieved from AR15.com