合法か、違法か? 最近話題の「80% ロウワー」とは何か?


記事公開: 2014年03月20日 07時02分
最終更新: 2016年03月13日 03時55分

「80% ロウワー」については C85 で頒布した本にも少し書いたのですが、ATF が 80% ロウワーの販売店を強制捜査した先週の事件が話題になったことを受け、このサイトでより詳細に解説することにしました。

80% ロウワーとは何かを説明する前に、まずは AR-15 のロウワーレシーバーの法的位置付けを説明する必要があります。

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Lewis Machine & Tool (LMT) 社製の AR-15 向けロウワーレシーバー。このようにパーツが何も組み込まれていないロウワーレシーバーは、「ストリップト・ロウワーレシーバー」 (stripped lower receiver) と呼ばれる。
Pic from: LMT Defender 2000 Stripped Lower Receiver – New – AR15.Com Archive

アメリカ国内では、AR-15 のロウワーレシーバーは、パーツとして機能するものであればそれ単体で「火器」 (銃器) 扱いとなります。
これは、火器のレシーバーはその火器のシリアルナンバーが表示されるパーツであるとアメリカの法律は見なしていて、レシーバーに表示されている製造者名やシリアルナンバーを基に管理が行われるためです (AR-15 など、複数のレシーバーを持つ火器の場合、シリアルナンバーが表示されている方が管理の対象となります)。
つまり、上の写真に写っているような AR-15 のロウワーレシーバーは、法律上「火器」であるということになります。

「火器」である AR-15 のロウワーレシーバーを製造・販売するには、「連邦火器ライセンス」 (Federal Firearms License, FFL) が必要とされています。ですから、ロウワーレシーバーを購入する際にも、FFL の保有者 (FFL ホルダー) を通じてのみ入手が可能で、購入の際には NICS による購入者の身元確認や、公的機関による購入許可、そして火器登録などが必要になります (火器の購入に必要な手続きは、州によって大きく異なります)。

 

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CNC 加工機を用いて鋼片 (ビレット) から削り出される AR-15 のロウワーレシーバー。このように完全削り出しで成形されたロウワーレシーバーは、「ビレット・ロウワーレシーバー」 (billet lower receiver) と呼ばれる。
Pic from: First Tormach Project – AR15 Lower

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アルミ製の一般的な「80% ロウワー」。ハンマーやトリガーなどを組み込むスペースや、ピンを通す穴などが削り出されていない。また、銀色であるのはアノダイズ処理 (アルマイト処理, 陽極酸化処理) が施されていないため。
Pic from: AR 15 80 Percent receiver | CustomShooter.com

そこで登場したのが「80% ロウワー」です。
ロウワーレシーバーを鋼片から削り出す工程で、残り 2 割の作業を残して 8 割しか完成していない未完成のロウワーレシーバーが「80% ロウワー」と呼ばれます (更に工程を進めた「90% ロウワー」や「95% ロウワー」なども存在します。同じ「80%」でも製造者によって工程にばらつきがあります)。
未完成である以上、AR-15 のパーツとしては機能しないため、法律上の「火器」とは認められず、ただの「鉄の塊」と同じ扱いになります。
従って、FFL を保有していなくても製造・販売が可能です。製造者名とシリアルナンバーを表示する必要はありません購入の際に手続きが必要になることもありません。鉄の塊なのですから。
販売価格も 50 ~ 100 ドルと、「完成品」の半額、またはそれ以下で購入することが出来ます。

 

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緑色の部分を新たに削り出すことで、「鉄の塊」である 80% ロウワーを「ロウワーレシーバー」として使うことが可能になる。
Pic from: Build it Yourself – Advanced Rifles

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3D プリンターを用いて「印刷」された、80% ロウワーの「完成」を支援する治具 (ジグ)。
Pic from: 3D Printed Jig – Version 2.0 – Advanced Rifles

問題は、 80% ロウワーの購入者が自分で 80% ロウワーを「完成」させてしまうことにより、シリアルナンバーが表示されていない「火器」が数多く出回っているということです。
FFL 無しに80% ロウワーを完成させることは、違法ではありません。諸事情によって火器の所有が禁じられていない限り、個人使用に限るという条件で火器を製造することが許されているためです。
ATF は、「火器として使用可能な状態にするには、特殊な機械設備や技能が必要である」とし、80% ロウワーの存在を容認してきました。しかし実際には、80% ロウワーの完成を支援するマニュアルや治具も市販されているため、設備さえあれば 80% ロウワーを完成させることはそれほど難しくはないといいます。
ATF は、「ひとたび銃になったら常に銃」 (once a gun always a gun) という考え方を採っています。その為、80% ロウワーを完成させて「火器」にした後、削り出した部分を埋めたとしても、それは法律上の「火器」として扱われます。
また、「80% ロウワーを家族や他人の為に完成させる」ことは禁止されています。80% ロウワーは完成した時点で「火器」であり、このことは火器を譲渡していることに等しいからです。

 

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先週の強制捜査で押収の対象になった EP Armory 社のポリマー製 80% ロウワー「EP80」。
Pic from: EP 80% Receiver, Black – EP Armory

特に問題になっているのが、ポリマー製 80% ロウワーの存在です。ポリマー製の 80% ロウワーはアルミ製のものよりも加工がしやすいのは勿論ですが、画像の EP Armory 製のものは、なんと削り出す部分を色で示してあります。つまり、ほとんど誰でも完成させることが出来るようになっているのです。

ATF はこの現状を踏まえ、「ポリマー製 80% ロウワーは銃のパーツではなく『火器』である」とする決定書を新たに発表しました。このことが、先週の ATF による強制捜査の理由にもなっています。

しかし ATF は、「鉄の塊」と「火器」の違いを明確に示すことが出来ていません。「80% ロウワー」の定義がハッキリしていないのです。ポリマー製 80% ロウワーが「火器」である理由の一つとして挙げられた、「容易に火器に転換出来る」という表現の解釈について、判例にもばらつきがあるそうです。

 

80% ロウワーの問題は、まさに「鶏か卵か」のジレンマに似ています。AR-15 のロウワーレシーバーは最初から「火器」として製造されるのか、それとも、製造のどの段階でも「火器」になることは無いのか……。

 

References:

Thumbnail image from: Build it Yourself – Advanced Rifles
The image is for illustrative purposes only.