【追記あり】米陸軍、新型迷彩パターン「スコーピオンW2」の採用を正式発表 2015年夏より配備開始

【追記あり】米陸軍、新型迷彩パターン「スコーピオンW2」の採用を正式発表 2015年夏より配備開始

アメリカ陸軍は先月31日、ACU(陸軍戦闘服; Army Combat Uniform)に使用される新型の迷彩パターンを「Operational Camouflage Pattern」(OCP)の名で採用したことを正式に発表しました。この迷彩パターンは、Crye Precision社のマルチカム(MultiCam)に似た「スコーピオンW2」(Scorpion W2)であると見られています。

陸軍首席報道官による発表の全文を翻訳の上、下に引用します。

アーリントン、ヴァージニア州(2014年7月31日)― 陸軍は標準戦闘服の迷彩パターンとして、一つのパターンを採用しました。陸軍は試験を通じて、そのパターンからは非常に優れた隠蔽性が得られることを確認しました。高い隠蔽性は、部隊防護力や兵士たちの生存性を直接的に向上させます。

パターンの使用範囲をアフガニスタン内から全ての戦闘部隊へと拡大することを強調して、陸軍はそのパターンを「Operational Camouflage Pattern」(OCP)と命名しました。現在使用されている戦闘服や装備品の消耗に合わせて交代し、年月をかけて移行することで、陸軍によるOCPの採用は予算を消化することになります。

OCPを使用した陸軍戦闘服(Army Combat Uniform)を兵士たちが軍用衣料品販売店(MCSS)にて購入可能になるのは2015年の夏季だと陸軍は見通しています。

「スコーピオンW2」とは?

スコーピオン迷彩の誕生

「スコーピオンW2」迷彩は、2010年頃に米陸軍ナティック研究所(NSRDEC)にて、オリジナルの「スコーピオン」迷彩をベースに変更が加えられて開発されたものです ((Breaking – US Army Makes Officical Announcement Regarding Adoption of Scorpion W2 aka Operational Camouflage Pattern – Soldier Systems Daily))。

スコーピオン迷彩が使用されたClose Combat Uniform(CCU)。CCUは米陸軍が2003~2004年頃に試験的・限定的に支給した戦闘服で、現在のACUの前身である。 (写真: Eric H. Larson氏)
スコーピオン迷彩が使用されたClose Combat Uniform(CCU)。CCUは米陸軍が2003~2004年頃に試験的・限定的に支給した戦闘服で、現在のACUの前身にあたります。 (写真: Eric H. Larson氏)

スコーピオン迷彩は、米政府との契約の下にCrye Precision社が開発したもので、2002年頃に米陸軍のObjective Force Warrior(OFW)計画に採用されました ((U.S. Army Scorpion Camouflage – HyperStealth))。後にCrye Precision社はこのスコーピオン迷彩を基に改良しマルチカムを開発したため、スコーピオン迷彩とマルチカムはよく似ているのです ((Army’s New Camo Pattern Will Mirror MultiCam | Military.com))。

スコーピオンW2迷彩(OCP)が使用された新型ACUを着るベンジャミン・オーウェンス曹長(MSG Benjamin Owens)。上腕部のジッパー付きポケットに注目。 (写真: アメリカ陸軍)
スコーピオンW2迷彩(OCP)が使用された新型ACUを着るベンジャミン・オーウェンス曹長(MSG Benjamin Owens)。上腕部のジッパー付きポケットに注目。 (写真: アメリカ陸軍)

スコーピオンW2迷彩を使用した生地の写真(2014/08/25 追記)

生地は500デニールのコーデュラナイロン。「Operational Camouflage Pattern - 2014年5月 - 合衆国政府による使用に限る」との表記がある。 (出典: Soldier Systems Daily)
生地は500デニールのコーデュラナイロン。「Operational Camouflage Pattern – 2014年5月 – 合衆国政府による使用に限る」との表記がある。 (出典: Soldier Systems Daily)
スコーピオンW2迷彩のパレットは8色。Wikipediaによると、マルチカムは7色とのことです。 (出典: Soldier Systems Daily)
スコーピオンW2迷彩のパレットは8色。Wikipediaによると、マルチカムは7色とのことです。 (出典: Soldier Systems Daily)
スコーピオンW2迷彩のパターンは幅60インチで、縦25インチごとにリピートします。一方マルチカムは幅約60インチで縦26インチごとにリピートします。 (出典: Soldier Systems Daily)
スコーピオンW2迷彩のパターンは幅60インチで、縦25インチごとにリピートします。一方マルチカムは幅およそ60インチで、縦26インチごとにリピートします。 (出典: Soldier Systems Daily)
スコーピオンW2迷彩。 (出典: Soldier Systems Daily)
スコーピオンW2迷彩こと新型Operational Camouflage Pattern。 (出典: Soldier Systems Daily)

一度は選考に敗れたスコーピオンW2迷彩

陸軍は2010年に、ACUに使用されているUniversal Camouflage Pattern(UCP)の更新を図って「迷彩改良計画」(Camouflage Improvement Effort)を開始し、22の迷彩パターンが選考に参加しました ((Army selects new camo pattern | Army Times | armytimes.com))。
スコーピオンW2迷彩も政府による案として選考に参加し、民間による4つのパターンと共に最終選考に残りました。しかし2012年3月、陸軍はスコーピオンW2迷彩を選考対象から除くことを発表したのです。その理由として、「政府案(スコーピオンW2迷彩)はある民間案(マルチカム)と類似していて、試験の結果、民間案の方がより高い性能を発揮した」と陸軍は発表しています ((Army Drops Govt. Camo Pattern from Race to Replace UCP | Kit Up!))。

Crye Precision社によると、選考のフェーズ4に残ったのは、(1) Crye Precision社、(2) ADS社とHyperStealth社の共同チーム、(3) Brookwood Companies社、そして(4) Kryptek社だったとのことです ((Army Selects New Camouflage Pattern | Military.com))。

ときに2004年、陸軍が3色デザート迷彩ウッドランド迷彩を更新するために次期迷彩パターンの選定を行った際、マルチカムはUCPに敗北しACUに採用されなかったという事実があります ((MultiCam – Wikipedia, the free encyclopedia))。
マルチカムは後にACUに採用される(後述)のですが、マルチカムとスコーピオンW2迷彩は共通して、かつて陸軍に選ばれなかった歴史を持っているというのは興味深いですね。

マルチカムの代替となるスコーピオンW2迷彩

二つの「OCP」

米陸軍の上層部はかねてより、複数の試験を通じて高い迷彩効果が認められていたマルチカムをもってUCPを更新しようとしていました。「不朽の自由作戦」(Operation Enduring Freedom)でアフガニスタンに展開している兵士たちから、UCPはアフガンの風土に合わないという意見が相次ぐと、陸軍は2010年にマルチカムを「Operational Camouflage Pattern」(OCP)として採用し ((元々OCPは「不朽の自由作戦」(Operation Enduring Freedom)から名前を取って、Operation Enduring Freedom Camouflage Patternと呼ばれていました。))、アフガンに駐留する兵士たち向けのACUに使用されることになりました ((Army on Track to Deliver New Camo Pattern by 2015 | Military.com))。

今回採用が発表されたスコーピオンW2迷彩の採用名も「OCP」であることから、陸軍はスコーピオンW2をマルチカムの代替パターンとした上で、アフガン内に限らず陸軍の全部隊に対してOCPを使用したACUを配備するつもりであると考えられます。

スコーピオンW2迷彩とマルチカムの違い

(出典: Wikimedia Commons)
マルチカム(OCP)が使用されたACUを着る陸軍兵。 (出典: Wikimedia Commons)

陸軍上層部は、スコーピオンW2迷彩とマルチカムの間には違いがあると断言しています ((Army Releases Photos of New Camouflage Pattern | Kit Up!))。
マルチカムとの比較から言えるスコーピオンW2迷彩の特徴は、「薄いベージュと濃いブラウンの斑点が少ない」そして「縦方向の枝状の模様が無い」ということです ((Army selects new camo pattern | Army Times | armytimes.com))。

(出典: Soldier Systems Daily)
左: マルチカム、右: スコーピオンW2迷彩。 (出典: Soldier Systems Daily)

スコーピオンW2迷彩とマルチカムの比較画像(2014/08/25 追記)

左: スコーピオンW2迷彩、右: マルチカム。 (出典: Soldier Systems Daily)
左: スコーピオンW2迷彩、右: マルチカム。光の当たり方が異なることに注意してください。 (出典: Soldier Systems Daily)

何故マルチカムは採用されなかったのか

マルチカムは高すぎる?

米陸軍は2010年以来、アフガンに展開する兵士たちのために、マルチカム(OCP)を使った衣料品・装備品を購入していますが、陸軍上層部はそのコストの高さに驚いたそうです。販売元が、マルチカムが使用された製品には、UCPが使用された製品よりも20%高い価格を付けていたのです。
陸軍上層部はCrye Precision社に対して交渉を持ちかけ、マルチカムを使った製品の市場価格を下げるように要求しました。
Crye Precision社のCEOであるCaleb Crye氏曰く、販売元がマルチカム製品に課している価格はCrye Precision社が制御しているものではなく、Crye Precision社が販売元から得ているのは「印刷料」であり、その代金は販売元がマルチカム製品に課す価格を約1%上げるだけに過ぎないとのことです。しかし陸軍はそれを信じようとしませんでした ((Army Balks at Camouflage Price Tag | Military.com))。

「陸軍はユニフォームをCrye社から得ていないにも関わらず、ユニフォームが高すぎると私たちに文句を言ってきます。販売元が製品に課している価格は、私たちが制御しているものではありません」(Crye Precision社役員、今年3月19日に行われたMilitary.comの電話インタビューにて) ((Army Balks at Camouflage Price Tag | Military.com))

陸軍のマルチカム買収計画

陸軍は2013年10月に、マルチカムを陸軍の「基本的迷彩パターン」として支給する旨の声明を発表しました ((Army Balks at Camouflage Price Tag | Military.com))。

「陸軍はマルチカム製品をUCP製品との価格差1%以内で入手出来るはずだということを、Crye社は幾度か正式に説明しました」
「陸軍はCrye社の説明を全く受け入れず、反論することもありませんでした。『兵士の生存性の確かな向上』は、1%未満の価格差にも値しないと言ったも同然です」(Crye Precision社の声明による) ((Army Balks at Camouflage Price Tag | Military.com))

陸軍上層部はその後、マルチカムの使用権をCrye Precision社から買い取ることを計画しました。しかしCrye Precision社の役員たちは、市場での利益が永久に損なわれてしまうことを危惧して、陸軍に権利を売り渡すことを渋っていました。
マルチカムというブランドが生み出しうる利益の全てが売り渡し価格に含まれたため、その価格は2,480万ドルと高額なものになりました。
結果として、陸軍はマルチカムの買収を断念。値下げの要求など、提示価格に対する陸軍の提案は行われなかったそうです ((Army Balks at Camouflage Price Tag | Military.com))。

何故正式発表が遅れたのか

採用が報じられたのは今年5月のことだった

米陸軍によるスコーピオンW2迷彩の採用がMilitary.comにて報じられたのは、今年5月23日のことでした。陸軍上層部がスコーピオンW2迷彩を選出したことと、レイモンド・チャンドラー3世陸軍最上級曹長(SMA Raymond Chandler III)が陸軍の全ての最上級曹長らに対して、UCPに代わってACUに採用される次期迷彩パターンに関するブリーフィングを行っていたことが明らかになったのです ((Army Selects New Camouflage Pattern | Military.com))。

しかし陸軍はそれから先月31日までの約2ヶ月もの間、スコーピオンW2迷彩の採用を正式に発表することはありませんでした ((Army Stays Quiet on New Camouflage Selection | Kit Up!))。

正式発表のきっかけは陸軍物資司令部長によるリークか?

先月23日、陸軍物資司令部(AMC; Army Materiel Command)の長であるデニス・L・ヴァイア大将(Gen. Dennis L. Via)は、ワシントン市内のホテルの一室にて、ある記者からのインタビューに対し、陸軍がスコーピオンW2迷彩を採用したことを認めました。陸軍が正式にスコーピオンW2迷彩の採用を認めたのはこれが初めてでした ((Army Stays Quiet on New Camouflage Selection | Kit Up!))。

「そのパターン、スコーピオン2が選出されたことは知っていますよ」
「(配備に向けた準備は)予定通りに進んでいると思います」
「支給開始の目処は2015年になる予定だったと思います。ユニフォームについて私が知っている情報はそれが最新です」(デニス・L・ヴァイア大将、記者からのインタビューに対して) ((Army on Track to Deliver New Camo Pattern by 2015 | Military.com))

そして先月31日に、陸軍はスコーピオンW2迷彩を採用したことを報道官を通じて突如正式に発表。その内容も、スコーピオンW2迷彩を2015年に配備する予定であるという、ヴァイア大将が記者に語った内容とほとんど一致するものでした。

陸軍はスコーピオンW2迷彩の採用を公にしたくなかった?

Military.comの記者が、陸軍の報道官に対してスコーピオンW2迷彩の採用に関するインタビューを行ったところ、報道官は「現時点でお伝えできる情報は無い」と回答したそうです ((Army Stays Quiet on New Camouflage Selection | Kit Up!))。
全ての陸軍兵士に関係しうる重大な決定を、陸軍はどうして公にしようとしなかったのでしょうか。

2014年度の国防権限法 ((米国防総省の予算と支出を定める連邦法で、原則として毎年制定される。))(NDAA; National Defense Authorization Act)では、米国防総省は2018年10月までに陸軍・海軍・空軍・海兵隊の四軍で使用する迷彩パターンを統一することが求められています ((House Votes to Eliminate Service Camo Patterns | Military.com))。

インタビューの際に「スコーピオンW2迷彩の採用は他の軍と決定したことなのか」と問われたヴァイア大将は、「そのような話は聞いていない」と回答したとのことです ((Army Stays Quiet on New Camouflage Selection | Kit Up!))。
つまり、陸軍は議会の決定に反して独自に新型迷彩パターンを採用してしまった可能性が高いということになります。

陸軍の迷彩パターンに関する今後の展望

マルチカムは今後どうなる?

スコーピオンW2迷彩の採用後も陸軍は、マルチカムを使用した装備品を購入していることが確認されています。
陸軍契約司令部(ACC; Army Contracting Command)は先月15日、マルチカムの第3世代IOTV(Improved Outer Tactical Vest)を20,000個追加発注する旨の事前公示を発表しました。

しかし、先月31日の正式発表にもある通り、段階的にスコーピオンW2迷彩が導入されることにより、最終的にはマルチカムはスコーピオンW2迷彩に完全に置き換わるものと考えられます。

なお、アフガンに駐留する部隊向けにマルチカムの戦闘服・装備品を支給することに、陸軍は30億ドル近くを費やしたと言われています ((Army’s New Camo Pattern Will Mirror MultiCam | Military.com))。

UCPは今後どうなる?

UCPの迷彩効果の高さを物語る一枚。 (出典: Military Quotes)

陸軍は、UCPを使用した既存のIOTVなどの装備品をコヨーテブラウンに染め直すことで経費を抑えると共に、スコーピオンW2迷彩へ移行するまでの繋ぎにしようと計画しているようです(もちろん装備品は消耗して機能しなくなるまで使用されます) ((UPDATE: New images show details of new Army camo | Army Times | armytimes.com))。

今年6月20日、陸軍の個人装備を担当するプログラムマネージャーが、ナイロン、コットン、レーヨンなど様々な繊維素材を染め直す技術を持つ企業を募集する旨の入札案内を発表しました。
装備品を製造元へ送るコストを省くため、基地内で染め直しが出来るような持ち運び式の染め具を求めているとのことです ((UPDATE: New images show details of new Army camo | Army Times | armytimes.com))。

米空軍もスコーピオンW2迷彩を採用する?

Airman Battle Uniformを着る空軍兵 (出典: Wikimedia Commons)
Airman Battle Uniformを着る空軍兵。 (出典: Wikimedia Commons)

米空軍のスポークスマンであるマット・ハッソン少佐(Maj. Matt Hasson)が今年6月3日、Air Force Timesに伝えた内容により、陸軍の新型迷彩パターンであるスコーピオンW2迷彩を空軍も採用する意向であることが明らかになりました ((Deployed airmen to wear new Army camo pattern | Air Force Times | airforcetimes.com))。

ハッソン少佐曰く、この計画は、現在アフガンとアフリカに派遣されている空軍兵たちが着ているマルチカムのユニフォームをスコーピオンW2迷彩に更新するものであり、Airman Battle Uniform(ABU)とそのデジタルタイガーストライプ迷彩を変更する予定は無いとのことです ((Deployed airmen to wear new Army camo pattern | Air Force Times | airforcetimes.com))。

スコーピオンW2迷彩のバリエーション展開

陸軍はどうやら、色の濃い森林地帯向け仕様や色の薄い砂漠地帯向け仕様などのスコーピオンW2迷彩のバリエーションを展開することを計画しているようです ((Army selects new camo pattern | Army Times | armytimes.com))。

Crye Precision社は去年11月、オリジナルのマルチカムをベースとして開発した、砂漠地帯向けのMultiCam Arid、森林地帯向けのMultiCam Tropic、雪原地帯向けのMultiCam Alpine、そして法執行機関向けのMultiCam Blackを発表しました。
恐らく陸軍はマルチカムと同じような、スコーピオンW2迷彩の「ファミリー化」を考えているものと思われます。

まとめ

  • 陸軍は、ACUに使用されているUCPをマルチカムで更新しようとしていたが、マルチカムはコストが高すぎたため、マルチカムと似ていてコストが安いスコーピオンW2迷彩を採用した。
  • スコーピオンW2迷彩はこれまでアフガンで使用されてきたOCPの代替となり、スコーピオンW2迷彩が使用されたACUは、2015年夏よりアフガン内に限らず陸軍の全部隊を対象に配備される。
  • 今年度の国防権限法では四軍で迷彩パターンを統一することが求められているが、陸軍はそれに反して独自にスコーピオンW2迷彩を採用してしまった可能性が高い。
  • 既存のUCPの装備品はコヨーテブラウンに染め直した上で引き続き使用される。
  • 米空軍も、アフガン・アフリカに展開する空軍兵向けにスコーピオンW2迷彩を採用することを計画している。
  • 陸軍はスコーピオンW2迷彩のバリエーション展開を計画している。

マルチカムを全てのACUに採用することは出来ませんでしたが、これでようやく悪名高いUCPを他の迷彩パターンで更新することが出来ました。しかし、議会からは「四軍で迷彩パターンを統一しなさい」と言われていることも忘れてはいけません。これからの米陸軍は大丈夫なのでしょうか……。