M16A1が真っ二つに破裂する映像から学ぶ、スクイブ弾と「タップ・ラック・バン」の危険性について

M16A1が真っ二つに破裂する映像から学ぶ、スクイブ弾と「タップ・ラック・バン」の危険性について

タップ・ラック・バンの危険性

タップ・ラック・バン」(TRB; Tap Rack Bang)とは、オートマチック式のピストル/ライフルがマルファンクション(動作不良)を起こした際に、マガジンの底を叩いて正しく固定されているかを確かめる(タップ)、スライド/チャージングハンドルを引いて排莢・次弾装填を行う(ラック)、そしてトリガーを引いて撃つ(バン)という緊急対応(Immediate Action)の一つです。

TRBは多くの銃器インストラクター達に支持されているものですが、ある状況下でTRBを行ってしまうと、下の動画のような重大な事故を引き起こしてしまいます。

スクイブ弾の危険性

この事故はどうして起きたのでしょうか? 結論を言うと、バレル内に「スクイブ弾」の弾丸が残ったまま次弾を装填・発射してしまったことがこの事故の原因です ((動画の説明文による。))。

スクイブ弾」(squib load) ((squib round、または単にsquibとも呼ばれる。squibは爆竹の意。))とは、薬莢に発射薬が含まれていない(またはその量が非常に少ない)弾薬のことであり、撃発するとプライマー(雷管)の発火圧力 ((“雷管の火薬は厳密には爆薬に分類されるものであり、燃焼ではなく爆轟が発生するものである。少量であっても発火圧力が非常に大きい”(Wikipedia)))で弾丸が薬莢から離れるものの、発射薬による推進力が十分に得られないため、弾丸がバレル内に留まってしまうものです ((米国競技用銃器・弾薬製造者協会(SAAMI)の定義による。))。

下の動画は、3ガンマッチ中にスクイブ弾による事故が起きた例です。上の動画ほど派手な損壊ではありませんが、やはりライフルは結果的に使用不可能な状態へ陥っています。

スクイブ弾への対処法

スクイブ弾は、撃発すると「ポッ」という、瓶の栓を抜いたような音がする不発弾であることから、”pop and no kick” とも呼ばれます ((Squib load – Wikipedia, the free encyclopedia))。

撃発の際に「ポッ」という音がして「不発かな?」と思ったら、ただちに使用を中止して、チェンバー(薬室)を確認してください。排出した薬莢から弾丸が無くなっていたら、バレル内に弾丸が残っている可能性が高いです。

一度バレル内に留まってしまった弾丸はそう簡単には取り除けません。これは、バレルの内径(ライフリングの山径)は弾丸の外径よりも狭い ((ライフリング – Wikipedia)) ((米国国家規格協会(ANSI)と米国競技用銃器・弾薬製造者協会(SAAMI)の任意標準では、.223レミントン弾の弾丸外径は0.224インチ(5.69mm: ジャケット(被甲)の厚さを含む)、対応するバレルのライフリングの山径は0.219インチ(5.56mm)、谷径は0.224インチ(5.69mm)と定められています。(PDF)))ためです。したがって、クリーニングロッドやピンポンチなどをバレルに挿入して慎重に押し出す必要があります。

実際にスクイブ弾とS&W M&P9を使用して実験を行った下の動画では、スクイブ弾の「ポッ」という撃発音を聞くことが出来るとともに、ピンポンチとハンマーを使ってバレル内の弾丸を取り出す方法が解説されています(1:45~)。

「タップ・ラック・バン」は推奨されるべきか

本来、銃に異常が見られた場合、ただちに使用を中止するべきです。しかし、戦場や事件現場、またはホームディフェンスの現場など、銃に問題が生じてもすぐに解消することが求められる場面は少なくありません。

緊急対応であるTRBは、そのような状況下に限り緊急避難的に行うべきものであり、全ての状況において推奨される万能の対応であってはいけないと僕は思います。シューティングマッチにおいては、もちろんタイムも重要ですが、何よりも安全が第一であることを忘れないでください。

2014年10月7日追記

アメリカ陸海空軍で運用されている、M16/M4シリーズ用オペレーターズマニュアル ((米陸軍テクニカルマニュアルTM 9-1005-319-10(2010年6月版)))では、「ポッという音が聞こえたり、通常よりも弱いリコイルを感じたら、ただちに射撃を中止してください」というスクイブ弾に関する注意書きと共に、銃の動作が止まってしまったときは緊急対応として「SPORTS」(スポーツ)を行うようにと定められています ((TM 9-1005-319-10(2010年6月版)、41~42ページ)) ((実際は、TM 9-1005-319-10では「SPORTS」と略記されていませんが、対応の内容は同じものです。米陸軍フィールドマニュアルFM 3-22.9(2008年8月版、2011年2月改訂)では「SPORTS」と略記されています。))。

SPORTSとは、「マガジンの底を叩く(Slap)、チャージングハンドルを引く(Pull)、チェンバーを確認する(Observe)、チャージングハンドルを離す(Release)、フォワードアシストを押す(Tap)、撃つ(Shoot)」の頭文字を取ったもので、チェンバーを確認する動作がある点がTRBとの大きな違いです。

また、スクイブ弾は個人が自分で空薬莢に(再)装薬する、いわゆるハンドロードの際に生じやすいのではないかという考えには僕も同意しますが、工場で生産されるファクトリーアモにはスクイブ弾が混じっていないとは決して言い切れないと思います。出来るだけ質の良い弾薬を選び、正しい対処を心掛けることが事故を防ぐ上で大切なのではないでしょうか。