機関部やマガジンがグリップとトリガーよりも後方に配置されるブルパップ方式のライフルは、全長が短くコンパクトであることから、室内での近接戦闘 (CQB) などにおいて重宝されています。
先月のショットショーでも、Desert Tech 社が発表した新型ブルパップライフル “MDR” が話題になりました。
ソヴィエト・ロシアは以前からブルパップ式 AK シリーズの開発に熱心でしたが、AR-15 がブルパップ化されたものは、なかなか見かける機会がありません。
そんな中、身近にあるものを使って自分で AR-15 をブルパップ化してしまったツワモノが現れました。
ブルパップ化の原理は簡単。土台となる木の板を側面に取り付けて、そこにトリガーの動きをリンクさせる仕掛けを作ります。後方のピストルグリップは邪魔なのでぶった切って、前方に新たなグリップも取り付けます。前方のトリガー (なんと1本のボルト!) を引くと、後方の (実際の) トリガーが連動して動き、射撃が行えるという仕組みです。
定義には反していないので、れっきとしたブルパップライフルです。
また、内部には手を加えていないため、法律に抵触する恐れもありません。
トリガーの動きを伝えるリンケージには、金ノコ刃 (金属用弓ノコの刃) を利用。木の板には軽量化のための穴が空けられていますが、この穴がまたホームメイド感を醸し出しています。
バッファーチューブを肩に担ぎ、ぶった切った後方のピストルグリップをストック代わりに射撃を行います。
こうして見ると確かに、16 インチバレルとは思えない程コンパクトで、取り回しは良さそうです。
射撃の際は、アッパーレシーバーのトップレイルで顔を傷つけないように、ネックウォーマーも必須となります。
しかし、一旦肩から下ろさないとチャージングハンドルが引けなかったり、何よりバッファーチューブが邪魔で、実用性は低そうですね……。
実は、AR-15 をブルパップ化しようと試みる人々は意外にも多く、これまでに様々なブルパップ式 AR のプロトタイプが作られてきました。
AR-15 をブルパップ化する際に、最も大きな障壁となったのは、やはりバッファーチューブの存在でした。
バッファーチューブが無い、チューブレスの AR としては、Z-M Weapons が開発し、2000 年から 2007 年まで製造していた LR-300 が有名です (画像は軍・法執行機関向けのセレクティブファイアモデルで、アルミ製レイルドハンドガードを備えた LR-300 ML-A)。
2008 年からは、1911 クローンで有名な、カナダの Para-Ordnance 社の子会社である Para USA 社が全ての権利を保有し、”Tactical Target Rifle” の名で製造・販売していましたが、2011 年には遂に生産終了となってしまいました。
LR-300 では、ボルトキャリアのガスキー (gas key: ガス直噴 (DI) 式において、ガスチューブを通ってきたガスが噴きつけられるパーツ) を延長し、それをガイドとしてハンドガード内にバッファースプリングを配置しました。
これにより、本来バッファースプリングが収められるパーツであるバッファーチューブが不要となり、LR-300 は折り畳み式ストックを装備することが可能になったのです。
射撃によりガスがガスキーに噴きつけられると、ボルトキャリアが後退すると共にこのバッファースプリングが圧縮され、スプリングが元に戻ろうとする力でボルトキャリアが前進し、次弾装填を行うという仕組みです。この方式は、現在でも多くのチューブレス AR に採用されています。
では、理想とする「チューブレスのブルパップ AR」は存在するのでしょうか。
軽量なライフルストックの開発・製造で知られる Ace 社が、かつて開発していたピストン式ブルパップ AR です。2005 年 (2006 年?) のショットショーにてプロトタイプが発表されたものの、結局開発中止となってしまったようで、現在では Ace 社のサイトにも記述が見当たりません。
情報が少なく、LR-300 と同じ方式なのかどうかは分かりませんが、チューブレスであることは画像を見ても明らかです。
こちらはブルパップ AR ではありませんが、AR-15 のロウワーレシーバーとトリガーグループを内部機構に利用して自作された、ユニークなブルパップライフルです。
先程の動画で紹介したものと同じように、(内部に) トリガーリンケージが組み込んであって、前方のトリガーと、AR のロウワーに収められた後方のトリガーが連動するようになっています。
AR のロウワーを利用しているにも関わらず、やはりチューブレスです。
3D CAD によって設計された、チューブレスのブルパップ AR ピストルのロウワーレシーバー。こちらも AR-15 のロウワーとトリガーグループを利用し、トリガーリンケージを用いて射撃が行えるようになっています。
もうここまで来ると AR と呼んでいいのかどうか疑問ですが、こちらはトルコの Safir Arms 社が現在開発中のブルパップライフル “T-17” です。
ハンマーピンやトリガーピンなどを見る限り、AR-15 のトリガーグループを用いているように見えなくもありません。
色々と調べてみましたが、使い勝手の良い「チューブレスのブルパップ AR」を設計することは、それほど難しいことではないと思います。
問題は、それが売れるかどうかではないでしょうか。
イギリスにフランス、イスラエルなど、サービスライフルにブルパップライフルを採用する軍隊は多くありますが、「ブルパップ AR」が、どこかの部隊に採用される日は来るのでしょうか……。
ソース:
Modern Firearms – Z-M Weapons LR-300
American Rifleman – PARA Exits Tactical Rifle Market
Rumor or fact: ACE working up bullpup AR? – AR15.Com Archive
Safir Arms New AR-57 Upper And Bullpup Rifle – The Firearm Blog