アメリカ・ニューメキシコ州アルバカーキの郊外で今月 16 日に発生した、ナイフで武装したホームレスの男を警官が射殺した事件のヘルメットカメラ映像を、地元のアルバカーキ市警察が公開しました。
生々しい内容を含みますので、閲覧の際はご注意下さい。
射殺されたのは、James Boyd さん (38 歳)。アルバカーキの郊外にあるサンディア山の麓で、行政の許可を得ず違法に野営していたホームレスでした。
通報を受けて警官が到着した時、Boyd さんは眠っていたようです。警官は Boyd さんの野営が違法行為であることを告げ、所持品を検査しようとしましたが、Boyd さんは応じませんでした。
Boyd さんは、自らは国防総省に勤務する職員であると主張した上で、身柄を拘束するつもりなら、自己防衛の為に実力を行使すると警官を威嚇しました。
アルバカーキ市警が Boyd さんの診療歴を調べたところ、Boyd さんは過去に精神疾患の治療を受けていたことが判明。ただし、ホームレスが精神疾患を抱えることは、決して珍しいことではありません。しかし警察は Boyd さんを開放するどころか増援を送り込み、状況は更に悪化していきました。
山麓での警官と Boyd さんの論争は、およそ 3 時間にも及びました。「精神的に不安定なホームレス」に対処する為に、警察は ROP チーム (Repeat Offender Project, 累犯者対策班) を投入。ROP チームは、アルバカーキの凶悪犯罪に対処する、アルバカーキ市警とニューメキシコ州警察の私服警官で組織されたエリート部隊です。
状況がクライマックスに達したのは午後 7 時 30 分頃でした。伝えられるところでは、Boyd さんが膠着状態を終わらせることに同意したのです。Boyd さんは警官らに、「約束」を守るようにと警告しました。
「約束は守ってくれよ、」Boyd さんは警官らに言いました。「今からここを動く。俺を撃たないでくれ。約束を守るなら、俺もお前らを傷つけないから。」
Boyd さんはバックパックを背負い、保温ポットを拾い上げて右手で持ち、左手で青いバッグを掴みました。(動画の 0:20 ~)
「心配するなって、俺はクソッタレの人殺しじゃない。」Boyd さんは続けました。「やめろって。撃たないでくれ。俺だって何もしないから。いいな?」
Boyd さんがその場から立ち去ろうとしたときでした。
「やれ。」一人の警官の掛け声を合図に、Boyd さんの足元へフラッシュバンが投げられました。
警官らが銃を構えたまま Boyd さんに歩み寄り、「地面に伏せろ!」と叫びます。
K9 (警察犬) が吠えながら Boyd さんに向かって駆け出すと、Boyd さんは荷物を投げ捨て、反射的にポケットからナイフを取り出しました。しかし彼はナイフを取り出しただけで、前に出ることも無ければ、脅すような素振りを見せることもありませんでした。
Boyd さんは 5 秒程その場に立ったままでした。それから警官らに背を向け、地面に伏せ始めた (もしくは逃げ始めた?) ところを、警官らに実弾で銃撃されたのです。
発砲したのは Dominique Perez さんと Keith Sandy さんの 2 名で、それぞれ 3 発ずつ発砲しました。
地面に倒れた Boyd さんに警官らが詰め寄り、ナイフを捨てろ、手を上げろと何度も呼び掛けます。
この間にも Boyd さんは、「これ以上撃たないでくれ」(Please don’t hurt me anymore, 動画の 1:03) 「動けない」(I can’t move, 動画の 1:06) と呻いているのが聞こえます。
倒れたままの Boyd さんに対して、警官は更にビーンバッグ弾 (非致死性弾) を 3 発発砲。Boyd さんは遂に動かなくなりました。放たれた警察犬が Boyd さんの脚にかじりついても、彼が反応することはありませんでした。
アルバカーキ市警の責任者である Gordon Eden さんは、この発砲が正当なものだったかどうかと問われた際に、こう述べています。
「あの発砲は正当なものだったと、私は確信しています。『ガーナー判決』に照らせば、あの場には警官に対する脅威が存在したと言えるでしょう。」
「ガーナー判決」とは、強盗を犯し逃走中だった当時 15 歳の少年 Edward Garner 君がフェンスをよじ登ろうとしていたところを、警官が後ろから射殺したという 1974 年の事件を巡って、1985 年、連邦最高裁判所が
「警官やその他の人々の死、または深刻な身体的外傷に繋がりうる著しい脅威として容疑者は認められると判断するに足りる相当の理由がある場合、容疑者が非武装であったとしても、逃走中の容疑者を殺害することは合理的である」
と判断したものです。
Gordon Eden さんは、このガーナー判決に照らすことで、Boyd さんを後ろから射殺したことを正当化しようと試みたようですが、果たして今回の事件がガーナー判決のいう状況に当てはまると言えるでしょうか?
Eden さんはまた、「(武力を行使する前に) 非致死性の対策をとった」ことを指摘していますが、当局は、これは殺人であるとの見方を示しています。
弁護士の Joe Kennedy さんは、地元メディアのインタビューに対して、あの場における「脅威」は、警官らが自ら Boyd さんに近づいていったことによって生じたものだとした上で、「地面に伏せろという警官の命令に Boyd さんが従おうとしていたのなら、一体何の権利があって彼を射殺したのか?」と答えています。
アルバカーキ市警が Boyd さんの経歴を捜査したところ、Boyd さんには先述の精神疾患の治療歴の他にも、暴行の容疑で逮捕歴があったことが分かりました。しかし実は、アルバカーキの警官らにも好ましくない過去があったのです。
Boyd さんに向けて実弾を発砲した警官の一人である Keith Sandy さんは、アルバカーキ市警に配属された当時から物議を醸していた警官でした。Sandy さんは元・州警察官でしたが、伝えられるところでは、副業を行ったことによる職務違反で免職になっていました。しかし 2007 年に、Sandy さんを含む免職された元警官らはアルバカーキ市警によって再雇用されたのです。
「彼らが銃とバッジを与えられることはありません。」2007 年当時のアルバカーキ市警の責任者は、こう約束しました。「彼らは民間人として雇用されています。証拠を集めるのが彼らの仕事です。」
しかし、その約束は嘘だったのです。彼らは皆、銃とバッジ、そして公的権力を与えられていました。Sandy さんは、風俗犯罪取締班や累犯者対策班 (ROP) など、様々なエリート部隊の一員に昇進していきました。以来、Sandy さんは様々なトラブルに関わり、現在は、数々の違法捜査を行い市民の権利を侵害した罪で告訴されていると地元メディアは報じています。
アルバカーキ市警の発砲が物議を醸したのは、今回が初めてではありませんでした。2010 年には、アルバカーキ市警の警官が Kenneth Ellis さんを誤射し死亡させた事件に対し、市は 1 千万ドルの慰謝料を支払いました。昨年 10 月には、逃走中の強盗犯の背中に警官が数発発砲するという事件も起きています (今月初めに映像が公開されました)。
2012 年以降、司法省は、不合理で過度な武力を行使し続けるアルバカーキ市警を捜査しているとのことです。
アルバカーキ市警では、判断ミス、ずさんな措置、民権の侵害、そして不当な射殺による不祥事が相次いでいます。市民は、警察を見張る厳格な番人でなければなりません。ましてアルバカーキでは尚更です。
アルバカーキ市警への責任追及は、今後も厳しく続くものと思われます。
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