アメリカにおけるフルオートウェポン規制の現状
1986年5月19日にアメリカで成立した火器所有者保護法(FOPA; Firearms Owners’ Protection Act)は、その成立日以降に製造・登録された全てのフルオートウェポンを民間人に対して販売することを禁じています ((Firearm Owners Protection Act – Wikipedia, the free encyclopedia))。従って、現在それらのフルオートウェポンを所有出来るのは、連邦政府からライセンスを交付されたディーラーと、政府機関および法執行機関のみに限られています ((Legal Issues of personal Machinegun ownership – NFA Toys))。
火器所有者保護法は、1968年の銃器規制法(GCA; Gun Control Act)が定めていた規則の多くを改正するもので、本来その内容は銃器・弾薬の販売・流通規制の緩和など、文字通り「火器所有者の保護」に努めたものが中心でした ((Firearm Owners Protection Act – Wikipedia, the free encyclopedia))。しかし、法案が下院を通過する直前に共和党のウィリアム・J・ヒューズ(William J. Hughes)下院議員が、「(法案成立後)新たに製造されたフルオートウェポンを民間人に対して販売することを禁じる」などのいくつかの修正案を提案したのです ((Firearm Owners Protection Act – Wikipedia, the free encyclopedia))。特に銃市場への影響が大きい、この「フルオートウェポンの販売禁止」を定めた修正案 ((下院法案第4332号への下院修正案第777号(H.Amdt.777 to H.R.4332)))は、俗に「ヒューズ修正」(the Hughes Amendment)と呼ばれています ((Today in History: The Hughes Amendment – The Shooter’s Log))。
1986年4月10日、「ヒューズ修正」は発声投票により下院を通過し、同5月6日に上院は下院の修正案を承認しました ((Firearm Owners Protection Act – Wikipedia, the free encyclopedia))。そして同5月19日、ロナルド・レーガン大統領の署名をもって、第99回議会公法第308号(Public Law 99-308)として「火器所有者保護法」は成立したのです ((Firearm Owners Protection Act – Wikipedia, the free encyclopedia))。
1986年5月19日以前に製造・登録されたフルオートウェポンは「トランスフェラブル」 ((transferable。「(民間人の手に)移転できる」の意。))と呼ばれ、1934年の連邦火器法(NFA; National Firearms Act)が定める規定に基づき、200ドルの移転税を納めることで民間人でも購入・所有することが出来ます ((Transferable – Machine Gun Price Guide))。
市場に流通する全てのフルオートウェポン(骨董品を除く)は、司法省の「アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局」(BATFE, ATF; Bureau of Alcohol, Tobacco, Firearms and Explosives)によって厳しく管理されることになっていて、違法にフルオートウェポンを所有すると10年以下の禁錮、25万ドル以下の罰金、またはその両方を課されることになります ((Summary of State and Federal Machine Gun Laws – Connecticut General Assembly))。
トランスフェラブルであり、なおかつ正常に動作するフルオートウェポンは数の減少に伴い ((ATFの統計によれば、アメリカ国内に存在するトランスフェラブル・フルオートウェポンの数は、数年前の時点で182,619挺であるとのこと。(Word文書)))、市場価格は非常に高騰しています ((Firearm Owners Protection Act – Wikipedia, the free encyclopedia))。
また、ここに挙げた法令は全て連邦法であり、フルオートウェポン規制に限らずアメリカの銃規制事情はそれぞれの州ごとに大きく異なるということを付け加えておきます。
引いても離しても弾が出る双方向性トリガー
米フロリダ州のLiberty Gun Works社が生産する「リベレーター・カービン」(Liberator Carbine)は、AK-47と同じ7.62x39mm弾を使用するAR-15です。
スティール製薬莢を持つ7.62mm弾を確実に撃ち出せるように改良されたボルトを使用していることもその特徴の一つですが、最近物議を醸しているのは、引いても離しても弾が出る「双方向性トリガー」 ((bi-directional trigger(バイ・ディレクショナル・トリガー)。Liberty Gun Works社は現在特許を申請している。))が搭載されているということです。
銃のトリガーとは本来、引いたときにのみ弾が発射されるものです。「引いても離しても弾が出る」とはどういうことなのか、リベレーター・カービンのプロモーションビデオで確認してみましょう(1:00からの射撃シーンが最も分かりやすいと思います)。
ご覧のように、双方向性トリガーを使用すると通常の2倍近いスピードで射撃を行うことが出来ます。改造された特殊なトリガーである双方向性トリガーを使用して銃の射撃スピードを速めることは、果たして合法なのでしょうか? そもそも「セミオート」と「フルオート」の違いとは何でしょうか?
双方向性トリガーの合法性について
The Firearm Blogの記事によれば、このAR-15用双方向性トリガーを開発したLiberty Gun Works社が顧問弁護士に法令調査を依頼したところ、機能上はフルオートではなくセミオートであり、完全に合法であると判断されたとのことです。
実は、「引いても離しても弾が出るトリガー」を巡っては、10年前にも大論争が巻き起こっていました ((Ruger Mini-14 2-Shot Okay… BATF! – THR))。なんと、スターム・ルガー社のミニ14ライフルにおいて、トリガーとシアの間に紙用ホチキス針を挟むと、トリガーを引いても離してもハンマーが落ちるということが発見されたのです。
実際にホチキス針を挟んで射撃を行う動画はこちら。その詳細なメカニズムと暴発の危険性はこちらの動画で説明されています。
ATFは、ミニ14の「双方向性トリガー化」改造に関して、次のような回答を行っています。
本文を日本語訳すると次のようになります。
この文書は、ルガーのミニ14ライフルを、トリガーを引く、および離す度に発射するように改造することについて尋ねた内容で、アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局(ATF)の火器技術部門に宛てて2003年12月3日付けで送られた、あなたの書簡に関連するものです。
連邦火器法(NFA)、合衆国法典第26編第5845条b項 ((26 U.S. Code § 5845 – Definitions | LII / Legal Information Institute))では、マシンガン ((法律上、フルオートウェポンは、その大きさや口径に関わらず全て「マシンガン」として分類されます。))は次のように定義されています。
……トリガーの1回の動作により、手動で再装填することなく自動的に1発を超える弾を発射する、発射するように考案された、または発射する状態へ容易に復することが可能な全ての武器を意味する。この用語はまた、全てのそのような武器のフレームまたはレシーバー、武器をマシンガンに改造するために単独かつ専一に考案および意図された部品、または同様に考案および意図された部品の組み合わせ、ならびにマシンガンを組み立てることが可能な部品を一個人が所有または管理している場合において、そのような部品の全ての組み合わせを含む ((複雑な定義ですが、要するにフルオートウェポンそのものだけではなく、そのレシーバーや、フルオート化に必要なオートシアなどの部品も「マシンガン」として分類されるということです。))。
トリガーを引く、および離す度に発射する火器は、「トリガーの1回の動作により、手動で再装填することなく自動的に1発を超える弾を発射する」火器であるマシンガンの定義に適合しないと考えられます。火器に加える改造によっては判断が改められ、マシンガンとして分類される場合があることをご了承ください。レシーバーの構成や、一個人が所有する部品の組み合わせによって、火器の機能に関わらずマシンガンとなる恐れがあります。
つまり「トリガーを引く、および離す度に発射する」ことは「トリガーの1回の動作により、手動で再装填することなく自動的に1発を超える弾を発射する」こととは異なるため、双方向性トリガーの機能はフルオートではなくセミオートであり、従って双方向性トリガーは合法という結論になります。ただし、本文の最後にもあるように、改造によっては「マシンガン」として分類される場合があるので注意が必要です。
Liberty Gun Works社の双方向性トリガーがどのようなメカニズムで動作するのか、詳しいことはまだ分かっていないので、購入者のレビューを待ちたいと思います。また、先程紹介したプロモーションビデオのコメントによれば、トリガーグループ単体での販売の予定は無いとのことです。
「フルオート」を楽しみたいアメリカの国民たち
フルオートウェポン規制と言えば先日、Daily News Agencyのchakaさんが、興味深い記事を投稿されていました。
アメリカ政府機関、法律の「抜け穴」によって28年ぶりに「フルオート」銃の生産を認可しかけるパニックが発生 – DNA
この「抜け穴」に関しては今年5月から話題になっていましたが ((The ATF May Have Accidentally Thrown Open the Machine Gun Registry – The Truth About Guns))、「よく見つけたなぁ……」というのが僕の素直な感想です。
今回取り上げた双方向性トリガーの他にも、バンプファイア/スライドファイアストック(動画)や、Tactical Fire Control社の3MRトリガー ((通常、トリガーを引いた後は指を離してトリガーをリセットする必要があるが、3MRトリガーでは自動的にトリガーリセットを支援するため、高速でトリガーを引き続けることが出来る。))(動画)など、「擬似フルオート」射撃を支援するデバイスは多く存在します。
一度法律の抜け穴が見つかると、それをビジネスチャンスとして捉え、ここぞとばかりに新製品が次々と開発されるアメリカの銃産業は、ある意味ではとても活気に溢れていると思います。哀れむべきは、銃規制推進派と反対派の間で板挟みになって新製品の合法性を審査しているATFの存在です。SIG社のスタビライジング・ブレイス ((「ピストル」にショルダーストックを取り付けることは法律に抵触するが、「腕を通して銃を安定させること」を目的に開発されたブレイスはショルダーストックとは見なされない。また、ブレイスをショルダーストック代わりに使用することに関しても、ATFは合法であると判断した。(出典)))(動画)など、「本当にこれ合法にしちゃっていいの!?」と思うような製品まであります。
アメリカの銃規制事情は、もはや合法と違法の線引きがかなり曖昧になってきているようにも感じます。憲法修正第2条が人民の武装権を保障する限り、アメリカの銃産業は法律に挑むことを止めないでしょう。