昨年12月に、アメリカ陸軍がM9ピストル用の「Improved Modular Tactical Holster」（IMTH）として2,400万ドルで調達を決定したことが発表されたBlackhawk社のSERPAホルスター。
日本でも「CQCホルスター」の名で知られているこのホルスターは、トリガーフィンガー（人差し指）で解除出来るパドル式ロックを採用することにより、素早い銃の抜き差しを可能にしています。
しかし、そのパドル式ロックが原因で、SERPAホルスターには安全上の問題がいくつかあることをご存知でしょうか。
今回は、SERPAホルスターを使うべきではない3つの理由をご紹介します。
①銃が抜けなくなることがある
パドル式ロックを採用しているSERPAホルスターでは、トリガーフィンガーでパドルの一片を押してもう一片を持ち上げ、トリガーガードに掛かっているロックを解除することで銃をドローします。
パドルはスプリングで保持されていて、収納するときは銃をホルスターに差し込むだけで自動的にロックが掛かる仕組みになっています。
もしも、パドルとホルスター本体の間に、砂や砂利などの異物が挟まってしまったらどうなるでしょうか。
パドルが押せなくなる、つまりロックが解除出来ず、銃が抜けなくなってしまうのです。
実戦において肝心な時に銃をドロー出来ないとなると、最悪の結果を招きかねません。
②実際はそれほど素早くドロー出来ない
どれだけ練習しても、トリガーフィンガーを使ったロック解除が、他のロック方式よりも素早く行えることはないとされています。何故なら、常に正確にトリガーフィンガーでパドルを押し込むことが出来るとは限らないからです。
押す位置が少しずれていただけで、ロックが外れずドローが間に合わないということも十分に考えられます。
また現在では、もっと素早く・簡単に・確実にロックを外すことが出来るホルスターも多く存在しています。
③「意図しない発砲」が起こる可能性が高い
SERPAホルスターに関する最も重大な問題として挙げられるのが、「意図しない発砲」（ND; negligent discharge）が起こる可能性が高いということです。
特に身体的・精神的ストレスを受けて興奮状態にあるとき、銃をドローする過程において、ロックを外すのに使用したトリガーフィンガーがそのままトリガーに掛かり、銃口をターゲットに向ける前に発砲してしまうという事故が報告されています。
次の動画には、トレーニングでSERPAホルスターを使用中に発生したNDの瞬間が収められています（0:25から）。
この事故を経験したTex Grebner氏は熟練したシューターですが、どうやら当時は5.11社のホルスターからSERPAホルスターに乗り換えたばかりだったそうです。
Grebner氏はホルスターを責めずに自分自身を責めています。当然ながら、このNDは人為的ミスであるからです。しかし、SERPAホルスターがNDを引き起こしやすいホルスターであることに変わりはありません。
もちろん、これはSERPAホルスターだけではなく、トリガーフィンガーでパドルを押してロックを解除するタイプのホルスター全てに共通して言えることです。
他の2つの理由は無視するにしても、この理由だけは絶対に看過することは出来ません。
私たちの太腿には、大腿動脈という大きな血管が通っています。もしも大腿動脈から出血した場合、数分で脚は麻痺し、最終的には死に至ります。その点、Grebner氏は非常に幸運だったと言えるでしょう。
実はSERPAホルスターは多くの批判に晒されている
米陸軍、米海兵隊、そしてドイツ陸軍を含む多くの軍隊・法執行機関で使用されているSERPAホルスターですが、実は上記の理由から多くの批判に晒されています。
Haley Strategicのトラヴィス・ハーレイ氏と、Vickers Tacticalのラリー・ヴィッカース氏は、自身のトレーニングクラスにおけるSERPAホルスターの使用を禁止しています。
クリス・コスタ氏とポール・ハウ氏も、SERPAホルスターに対して否定的な意見を述べています。
この他にも、SERPAホルスターの使用に反対しているトレーニングインストラクターや組織は多く存在するのです。
また、SERPAホルスターは過去に2度、欠陥が発覚しリコールが実施されたことがあります。
これほど批判が相次いでいるのにも関わらず、SERPAホルスターは未だ市場に出回り、人々はSERPAホルスターを購入し続けています。更なる悲劇が起こらなければいいのですが……。
Source: Three Reasons Not to Use the Blackhawk Serpa Holster | WeaponsMan