米軍特殊部隊が求めた秘匿可能な低視認性拳銃(LVCP)について: なぜG19は米軍特殊部隊に採用されたのか

米軍特殊部隊が求めた秘匿可能な低視認性拳銃(LVCP)について: なぜG19は米軍特殊部隊に採用されたのか

アイキャッチ写真はDVIDSより。2015年7月、グアテマラで開催されたフエルサス・コマンドー(Fuerzas Comando)競技会において、グロック19を発砲する米陸軍特殊部隊の隊員。このG19には、G17用の長い弾倉が装着されている。

本稿では、米国のSOCOMが2010年以降に調達した、LVCP(Low Visibility Concealable Pistol: 秘匿可能な低視認性拳銃)について紹介したいと思う。

LVCP(秘匿可能な低視認性拳銃)としてのG19

LVCPとは、端的に言えば、コンシールドキャリー(秘匿携帯)に適した小型拳銃のことである。小火器研究者のダニエル・ワターズ(Daniel Watters)氏は、LVCPについて、次のように述べている ((Watters, Daniel (2017) Re: First look at the NEW MK27 Pistol (Glock 19 Gen 4) [Video file] ※動画のコメント欄を参照。))。

SOCOMは、少なくとも2010年より、「秘匿可能な低視認性拳銃群」(LVCP)に関する要求を有している。その年に、SOCOMは国土安全保障省と契約を結び、2,500挺のグロック19を調達した。LVCPに関する要求は、グロック拳銃の単独調達 [随意契約] に添付されたJ&A文書 ((Justification and Approval 文書。競争調達の代わりに単独調達を行う理由を説明し、それを承認する文書のこと。))の中で言及され続けている。

SOCOMがLVCPとしてグロックを求めた理由を知るために、グロックの単独調達に関するJ&A文書を見てみよう。2015年に、陸軍の兵器研究機関であるRDECOM-ARDECとSOCOMが、グロック18(3挺)とナイトサイトつきグロック19(1,654挺)を単独調達するにあたって、その理由が述べられた箇所をJ&A文書より引用する ((契約番号W15QKN-13-G-0002-0001 “Glock 18 & 19 Systems” のJ&A文書 [PDF]、pp.3-4))。やや長くなるが、興味深いことが書かれている(強調は筆者による)。

SOCOMが、秘匿可能な低視認性拳銃群(FLVCP ((The Family of Low Visibility and Concealable Pistols の略。)))の部隊承認を委任したことで、SOCOMの隷下部隊は、定義された要求仕様に見合う拳銃を部隊単位で選定する権限を得た。FLVCPの要求仕様は、標準支給の拳銃では満たされていない。FLVCPに求められる基本性能を優先度順に定義すると、次のようになる。
1. 大きさは、長さが7.32インチ [約18.6cm] 以下、高さが5.43インチ [約13.8cm] 以下、幅が1.18インチ [約3.0cm] 以下とする ((長さ7.32インチ、高さ5.43インチ、幅1.18インチという寸法は、フルサイズの9mmグロックと合致するものである。))。当拳銃は、軍用戦闘服や民族衣装を着用して着座・起立・歩行を行う際に、一見して完全に秘匿されていて目立たない状態でなければならない。
2. 口径は、.380口径以上とする ((9x19mm NATO弾も、これに含まれる。))。
3. 信頼性として、少なくとも2,000発の平均サービス間隔 ((平均故障間隔と同様に、故障から次の故障までの平均的な間隔を表す指標であるが、現地での部品交換によって対処できる故障のみを対象とするものであると考えられる。))(MTBS)と、5,000発の平均故障間隔(MTBF)をもつものとする。
4. 極限環境下において、30秒未満で付属の標準弾倉3本を撃ち尽くすことができる堅牢性をもつものとする。
5. 保有にかかる費用が少ないものとする。
6. 複数の安全装置をもつものとする ((グロックの外部には手動安全装置が無いが、内部には3つの機械式安全装置がある。))。
7. 必要となる訓練量、弾倉の容量、追加照準器の入手可能性、使用者に対する人間工学性など、その他の考慮すべき条件を満たすものとする。

グロック社は、これらの要求仕様を全て満たす市販製品群を、あらゆる状況において各個人の要求を満たす拳銃群を提供している。SOCOM隷下部隊は以前にも、グロック社の拳銃群をもって、これらの要求を満たしたことがある。したがって、同部隊はグロック拳銃を追加支給することで、拳銃の配備にかかる訓練・戦術・手続きの継続性を確保し、任務における効用を保証し、補修部品と整備要件の標準化を確実にすることを求めるのである。

SOCOMは、秘匿可能な低視認性拳銃(LVCP)について、正当な要求を有している。SOCOMは、米国政府に対して調査を実施し、この要求が他の米国政府機関によって満たされているかどうかを判断した。調査の結果として、国土安全保障省(DHS)がLVCPを要求し、その選抜・選定・配備を行っていた。グロック19は、LVCPの要求仕様に見合うと判断されて、現在DHSに配備されている。

SOCOMは、DHSから2,500挺のグロック19を譲渡してもらう機会を得た。SOCOMは、グロック拳銃について既によく知っている。他のLVCPを選択することには危険が伴う。なぜなら、馴染みのない銃は、使用者の躊躇や誤用を招く可能性があり、整備上の問題が生じた際には、使用者や同伴者に身体的傷害が生じる恐れがあるからである。このような危険は、使用者にとって受け入れられない。SOCOMは、グロック19を運用することで、グロック19がLVCPの要求仕様を満たすと判断したのである。

グロック19は、安全と、法的な審査・承認のために、綿密な調査を経た。新たな拳銃を安全かつ効果的に配備するため必要となる訓練も、既に確立されて、グロック19と共に実施されている。DHSは、グロック19を採用するために、多くの時間と予算を費やした。新たなLVCPを試験・配備するためには、より多くの費用がかかる。また、安全に訓練・配備するためには、1年以上を要する。

長くなったので、ここで述べられていることについて要約してみたい。第一に、LVCPはコンシールドキャリーを目的とした拳銃であり、標準支給の拳銃(M9ピストルなど)はコンシールドキャリーに不向きである。第二に、DHSはSOCOMに先駆けて、G19をLVCPとして採用した。第三に、SOCOMは自らのグロック運用経験と、DHSによるG19採用を拠り所として、G19をLVCPとして採用した。第四に、新たに他のLVCPを選定するには、更なる時間と予算が必要になる。

G19は現代の「SOCOMピストル」である、ということは前回の記事でも述べた。G19は、米軍特殊部隊において、単なるサイドアームとしてだけではなく、秘匿携帯銃(CCW: concealed carry weapon)としての役割も果たしているのである。そのため、LVCPはCCWの類義語であると言える。

米軍特殊部隊がCCWを求めたのは、今回が初めてではない。例えば、かつての海軍SEALsは、.380口径のワルサーPPK/Sを使用していたようだ。それを裏付けるかのように、フロリダ州の国立海軍UDT-SEAL博物館には、MK11/MK12ライフルやMK46/MK48マシンガンなどと共に、PPK/Sが展示されている(下の図1を参照)。

図1: 国立海軍UDT-SEAL博物館における小火器展示の一部分。写真は『RECOIL』第1号より。

一方、現代のSEALsは、SIG P239をCCWとして使用している。シングルスタック弾倉を使用するP239は、ダブルスタックのP228(M11ピストル)よりも薄型で、秘匿携帯に適していると言える。著書『図説 現代の特殊部隊百科』(坂崎竜氏 訳)などで知られる軍事研究者のリー・ネヴィル(Leigh Neville)氏は、P239の使用実態について、こう述べている。「アフガニスタンにおけるSEALsは、ときどき、追加の保険としてP239を忍ばせているが、多くの場合、予備の弾倉は携帯していない」 ((Neville, Leigh (2015) Guns of the Special Forces 2001-2015 [Google Books version]. Pen & Sword Books. p.38))。

P239は、隊員の私物ではなく支給品であるようだ。その根拠として、SEALsの兵器庫には大量のP239が保管されている(下の図2を参照)。また、海軍DEVGRUも、標準拳銃MK25(P226)と消音拳銃MK24(HK45C)に次ぐ三つ目の選択肢として、P239を配備している。例えば、元DEVGRUゴールドチーム隊員のアダム・ブラウン(Adam Brown)氏 ((2010年3月17日、アフガニスタンのクナル州におけるタリバン掃討作戦中に戦死。36歳没。))は、現役時代にP239を携行していた(下の図3を参照)。これらのP239にはナイトサイトが装備されている。

図2: 2009年頃、西海岸SEALsの兵器庫に並ぶ大量のSIG P239。写真はSMGLee氏より。
図3: SIG P239を携帯するDEVGRUのアダム・ブラウン氏。写真は全米ライフル協会より。

G19の話に戻そう。ネヴィル氏は、SEALsにおける今後の動向として、G19がP226とP239の両方を代替する可能性を示している ((Neville, Leigh (2015) Guns of the Special Forces 2001-2015 [Google Books version]. Pen & Sword Books. p.54))。前回の記事でも述べたように、G19がP226を置き換えることは、ほぼ確定事項である。それに加えて、G19がSOCOMのLVCPとして採用されたことに鑑みると、G19がP239の後継になる可能性は十分にあると私は考えている。P226とP239をG19に一本化することで、経費削減も期待できる。

実は、各メーカーのカタログによると、G19とP239の幅は同じ30mmである。9mm弾を8+1発しか装填することができないP239と同じ幅でありながら、G19は15+1発の9mm弾を保持することができるのである。G19はポリマーフレーム、P239はアルミフレームであるが、装弾数に大きな差があるため、装填時の重量はG19の方が少し重い。それでも、小さな本体に大きな火力を備えるG19は、今後も米軍特殊部隊においてますます重用されていくことだろう。

次回の記事では、SOCOMとJSOCが近年調達した、LVAW(Low Visibility Assault Weapon: 低視認性突撃銃)について紹介したい。