カリフォルニア州の上院議員が危険性を訴えたのは……「ゴーストガン」?

カリフォルニア州の上院議員が危険性を訴えたのは……「ゴーストガン」?

アメリカ・カリフォルニア州では、昨年議会を通過しなかった何百もの法案が今月 31 日をもって立法期限を迎えます。立法期限が迫る法案の中には勿論、昨今全米を揺るがす銃規制に関するものも存在します。

そんな中、銃規制賛成派のある上院議員が新たな銃規制法の必要性を訴える為に記者会見で行ったスピーチの内容がとんでもないと話題になっています。

 

Anti-Gun Senator Makes a Fool of Himself – YouTube

個人によって組み立てられ、司法省によって押収されたフルオート仕様・ショートバレルの AR-15 を手にこのスピーチを行ったのは、カリフォルニア州の Kevin de León 上院議員 (民主党)。過激とも言える銃規制推進派として知られています。

そんな彼が主張する銃規制法案 (SB808) の内容は、「個人で火器を製造したり組み立てたりすることを許可する一方で、製造者に事前の身元調査を受けることを義務付ける」というもの。この法案も、今月末をもって立法期限を迎える法案の一つです。
「個人で火器を製造したり組み立てたりすること」には、個人が 3D プリンターを用いて火器を製造することから、個人で AR-15 などを組み立てることまで含まれます。

しかし、人々が問題にしているのは法案の内容ではなく、スピーチで露呈した彼の言語力と火器に関する知識でした。
スピーチの内容を文字にすると以下のようになります。

“This is a ‘ghost gun.’ This right here has the ability with a .30-caliber clip to disperse with 30 bullets within half a second. Thirty, magazine, clip, in half a second.”

日本語に訳してみました。

「これが『ゴーストガン』です。まさにこの銃は、30 発の弾が装填された .30 口径のクリップを、0.5 秒足らずで撃ち尽くす能力を持っています。30 のマガジンクリップが、0.5 秒足らずですよ。」

まず「ゴーストガン」 (ghost gun) とは何だ、と動画でもツッコまれていますが、ゴーストガンとは、個人によって製造されたり組み立てられた (主にシリアルナンバーが表示されていない) 自家製の火器を指す語のようです。管理が行き届かず、実体が掴めない銃であるから「ゴースト」なのでしょうが、隠喩的な表現であった為、誤解を招いたものと思われます。しかし、本当の問題は次の文にありました。

「.30 口径のクリップを、0.5 秒足らずで」……?

恐らく、「.30 口径のクリップ」 (.30-caliber clip) ではなく「30 連装のマガジン」 (30-round magazine) と言いたかったのでしょう。
AR-15 が .30 口径ではなく .223 口径であることは明らかですが、「クリップ」と「マガジン」の違いはどうでしょうか。

クリップは日本語で「挿弾子」と呼ばれ、本来は、マガジン (弾倉) に弾をまとめて装填する際に用いられる、弾を束ねる道具のことです。
しかし、M1 ガーランドなどではクリップがマガジンを兼ねていた (エンブロック式クリップと呼ばれる) 為、クリップとマガジンの混同が起こり、それ以来ボックスマガジン (箱型弾倉) がクリップと呼ばれることがあります (特に昔の世代の人々や、火器に疎い人々に多い)。

「0.5 秒足らずで」 (within half a second) という表現にも疑問が残ります。0.5 秒で 30 発を撃ち尽くすとすると、発射レートは毎秒 60 発 (毎分 3,600 発) という計算になります。しかし、一般的なフルオート AR、例えば M4 カービンであれば、発射レートは毎秒 15 発 (毎分 900 発) 前後です。自家製とは言えども、MG 42 をも凌ぐ毎分 3,600 発のフルオートを AR-15 で実現することは出来るのでしょうか……?

ネットでは銃規制反対派を中心に、「銃もろくに分からない奴に銃規制をさせるのか」「そもそも何でこんな奴が選挙に当選するんだ」などといった非難のコメントが相次いでいます。
De León 氏にとって英語は母語ではないことを加えて述べておきますが、火器に関して事実無根のスピーチを行ったことは、ましてやそれが立法期限に直面したことによる意図的なものだったとしたら、到底許されるものではありません。

De León 氏はこの法案の他にも、エアソフトガンなど全てのトイガンを実銃に似せて製造することを禁じる模擬火器安全法 (Imitation Firearm Safety Act, SB199) の成立も目指しているようです。
カリフォルニア州では昨年 10 月、AK-47 の形を模したエアソフトガンを持って通りを歩いていた Andy Lopez 君が、ファイアアーム・インストラクターであった副保安官に実銃を持っていると勘違いされ発砲、射殺されるという痛ましい事件が起きました。

今後、カリフォルニア州の銃規制法はどう変わるのでしょうか。

 

ソース:
California senator explains the dangers of a ‘ghost gun’ (VIDEO) – Guns.com
SACRAMENTO, Calif.: Legislative deadline nears for hundreds of bills | National Politics | NewsObserver.com
Anti-Gun Senator Is Being Mocked Relentlessly After He Warned of ’30 Magazine Clips’ in Embarrassing Video – TheBlaze.com

 

2014/01/27 追記:
Aero Precision 社が早速 “Ghost Gun” 仕様の AR-15 ロウワーレシーバーを発表しました。
セレクターマーキングが皮肉たっぷりに仕上がっています。

620-AERO-Precision-Special-Edition-Ghost-Gun-Lower-2

 

ソース:
NEW!! “Ghost Gun” Ltd. Edition AR-15 Lowers – AERO Precision | AR15NEWS.COM